第2回カンコン出展作品
福岡県の筑後地区にある209号線、その道路沿いにある一軒のラーメン屋の話。
今でも、最初にそのラーメン屋の看板を見た時の衝撃は忘れられません。
そのラーメン屋の名前は……
eラーメン.com
いや、ほら、「eメール」とか、「価格.com」とか、『e』やら『.com』やら付いたら、何か近代的って言うか電子的って言うか、そんな感じするじゃないですか。
でも、やっぱり世の中には常識では計り知れないものってあるんだと感じました。
だって…
これだもの。
もはやネットとテレビの融合なんかで騒いでいる時代じゃないってことですよね。
誰も思いつかなかったであろう電気・電子とラーメンのコラボレーション。
あまりにも前衛的すぎて、100年後の未来でも受け入れられそうにないのがネックだと思います。
最初にこのラーメン屋を見つけて、約半年。
過去、何度も恐怖心と好奇心が心の中で葛藤しあっていつも恐怖心が勝っていました。
でも、遂に今日、恐怖心を乗り越え、店内に足を踏み入れる時が来たのです。
予想通りで嬉しかったのですが、いくらなんでも人口密度が低すぎです。
一応時計を見ました。
12:30、ちょうどお昼時です。
なのに、何ですか、この客の少なさは。
僕を除いては他に客は2組しかいません。
でも従業員は3人います。
この店の経営がどうやって成り立っているのかは浅学の僕には分かりかねますが、おそらく『eラーメン.com』なだけに、株式分割とかマネーロンダリングとか小難しいことやってるに違いありません。
さてさて、ずっと店内の様子を観察していたいし、隙あらば写真に納めたいのはやまやまですが、先ほど述べたとおりお客さんが少ないものですから僕の行動は常に監視されているわけです。
なので、注文をしないでいると不審に思われてしまいます。
とりあえずラーメンを注文してみました。
ラーメン(450円)
見た目は普通に美味しそうなので、いろんな意味での期待が込み上げてきます。
以前、『延命ラーメン』という店に行ったことがあります。
人間、美味しいものを食べれば、もっと食べたいと思って長生きするのかも知れません。
そんな願いを込めて『延命ラーメン』と名付けたのかも、なんて考えていました。
一緒に行った友人は「インスタントの『うまかっちゃん』の方がまだマシだ」と食後の感想を述べました。
僕は、「良薬口に苦し」という諺で自分を納得させました。
大人は嘘つきです。
その後、一度『延命ラーメン』の前を通りかかった時、「お前の店、不味いんだよ! 延命じゃなくて短命ラーメンだろ!」というような落書きを店の壁にされていました。
僕はなかなかユーモアのある落書きだと思い、店主さんが笑いの分かる人で、落書きをそのままにしておいてくれないかなぁと思ったのですが、落書きはすぐにペンキで消されてしまいました。
いつの時代も、都合の悪い歴史は塗り替えられてしまうのです。
何が言いたかったかというと、つまりは、『eラーメン』の“e”が『延命ラーメン』のイニシャルを取った姉妹店なのではないかということを考えていたのです。
もしそうならば、ここでセカンドインパクトが起きてしまいかねません。
しかし、ここまで来て引き下がるわけにもいきません。
逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ。
それでは。
覚悟を決めて。
いただきます!
……。
…………。
…………………。
期 待 は ず れ 。
美味しいような、オイシクないような、嬉しいような、嬉しくないような、そんな気分になりました。
いや、だって普通に美味しいんですもん。
反則じゃないですか。
ここで「こんなもの食えない」ってくらい不味いのが出てくるからこそネタになるんじゃないですか。
え、ネタにしなくていいですか、そうですか。
とにかく美味しいんですよ。
スープもコッテリのわりには後味悪くないし、チャーシューも柔らかいのに味が染みてるし。
そんなわけで、ここでまた新たな考えが浮かんできました。
『eラーメン』のeは、「いい」ラーメンってことなんじゃないか、と。
『.com』は「どっと混む」という願いが込められているのではないか、と。
「嬉C」だの「恥ずかC」だの、オヤジギャグを真顔で恥ずかし気もなくアウトプットできるのは『テニスの王子様』の許斐先生ぐらいかと思っていましたが、結構身近にもいるものです。
しかも、『eラーメン』に至っては店の看板ですから、許斐先生の脇役などとはワケが違います。
さて、ラーメンは一段落。
もういろんな意味でお腹いっぱいになりかけなんですが、これを食べずして店を離れるわけにはいきません。
名物e餃子
名物ですよ、名物。
たいていの「名物」っていうのは何も知らない人の購買意欲をそそるために捏造されているものですが、ここまでバレバレだと逆に清々しささえ感じてしまいます。
名物e餃子(320円?)
それでは早速、いっただっきまーーす。
……。
…………。
…………………。
期 待 は ず(以下同文)
何なんですか、この仕打ち。
僕は『eラーメン.com』にご飯を食べに行ったんじゃないんです。
ネタを買いに行ったんです。
こんな風に、まあまあ美味しいものなんて出されたらオイシイのかオイシクないのか分からなくなってしまいますよ。
わざと不味いものを出して客を喜ばせようって気持ちはないんですか!
…なんて馬鹿なことを書いてしまいましたが、これで“e”がエンターテイメントの頭文字ではないことが判明しました。
さて、お腹もふくれたことですし、本格的に“e”について考えてみましょう。
一体、“e”にはどんな意味が込められているのでしょうか?
名前というものは大切です。
店の看板を飾るのならば尚更です。
「哀川翔」が「I川翔」だったら、縦書き漢数字の「一二三」ぐらい読みにくいです。
「大島渚」が「O島渚」だったら、まるで「空白に該当する文字を書いて官製はがきで応募してね」というような安っぽい懸賞のクイズみたいです。
「ユースケ・サンタマリア」は「Uスケ・サンタマリア」でも変わらないような気がします。
「大塚愛」が「O塚I」だったり、「飯島愛」が「E島I」だったりしたら、もはや何を言ってるんだかサッパリです。
話が逸れました。
一緒に行った友達は、Eランクって意味での“e”なんじゃないかと言っていました。
僕は「なるほど!」と思いましたが、商売はテキストサイトとは違うのでそこまで自虐的にならなくてもいいなと思いました。
ラーメンの味は悪くないのです。
ただ、客が入らないだけなのです。
僕が思うに、やっぱり“e”は何かのイニシャルだと思うのです。
浅学の僕では何の頭文字か推測することすら困難だったので、ここは思い切ってお店の人に店の名前の由来を聞くことにしました。
僕「すみません、何で“eラーメン.com”って名前になったんですか?」
店員「それはですね、店長の気まぐれと閃きです。」
閃きです。
閃きです。
閃きです。
この言葉を聞いた時、僕は『ロマサガ』で、“キック”を閃いた時のような気分になりました。
「そんなの閃きでも何でもなくね?」みたいな。
社長さんが「閃き」って言えばセンスある人間と思っているのかどうかは分かりかねますが、何を閃こうとも結果が伴わなければダメなものには変わりません。
“eラーメン.com”という名前が、見る人にインパクトを与えるという意味では確かに成功しているのかも知れませんが、そのあまりの奇抜さ故に人から敬遠され「昼時にもかかわらず店内には客の数より従業員の数の方が多い」状態ならば経営的には失敗といわざるをえません。
ともあれ、最後の最後でエキセントリックな答えが返ってきてホッとしました。
やっぱり、こうでなくっちゃ。
「閃き」で会社の経営を傾けている社長のご尊顔を拝みたかったのですが、あまりつっこみすぎると警戒されてしまうので、この辺で退却。
帰り際には「100円割引券」まで貰ってしまいました。
やっぱり、こうでもしないとリピーターが増えないというのはお店も自覚しているようです。
僕がこの店の前を通る時、いっつも駐車場がガラ空きなので不思議に思っていたのですが、僕なりの回答を見つけることが出来て本当に良かったと思います。
ラーメンに一番重要なものって何でしょう?
麺? それともスープ? 店の雰囲気? それとも…
名前って、本当に大切なんだなぁと心の底から思いました。(ラーメン店でのものとは思えない感想)
管理人・春日ハル